サラシが出ている磯

海の釣りは防波堤や砂浜からスタートして、基本をある程度マスターしてから磯へ移行するというのが一般的です。

もちろん、例外は多々あり、いきなり磯釣りや船釣りから始める人もいることは否定しません。

ただ、自然に身を晒す釣りというゲームは、魚を釣るという目的と同時に自分の身を守る方法も覚えなくてはなりません。それをいちどきにマスターするにはあまりにも内容が多すぎます。

そこで、段階を踏んで少しずつマスターするために危険度の少ない防波堤、あるいは砂浜でスタートするというのが通常のパターンなのです。

では、磯釣りはそんなに危険なのでしょうか?いえいえ、守るべきことを守っていれば危険はありません。

 

磯では大型が数釣れる……?

磯釣りの特徴のひとつに、経費がかかることが挙げられます。渡船を利用して磯に渡るのですから、当然料金を払わなければなりません。距離によって差がありますが、安いエリアでは5,000円、高額の釣り場だと10,000円以上かかるところもあります。それほど経費をかけて磯釣りをする理由は、大物が数釣れる確率が高くなるところにあります。あくまでも確率が高いということであって、必ず釣れるという保証はなく、それを断っておかなければなりません。

その大物という意味はふたつあります。防波堤で釣れるのと同じ魚種でありながら、はるかに大きな魚が期待できるというのがひとつ。メジナやマダイ、イシダイ、イサキがそれに当たります。いずれも幼魚のうちは防波堤でも釣れますが、成長するにつれて磯に移動します。もうひとつの意味は磯でしか望めない魚がいるということです。ヒラマサやブリなどの青物がそのいい例です。

40㎝を超えるメジナやイサキ、60㎝クラスのマダイやイシダイはまず磯でしか望むことはできません。ヒラマサ、ブリにいたっては1mオーバーも期待できるのです。安くはない渡船料金を支払う価値があるとは思いませんか?

 

まずは安全を確保しましょう

防波堤なら自分が好きなときに訪れ、帰ることができます。しかし、磯では不可能です。出港する渡船の時刻に合わせて港に行き、迎えにくる時間まで磯にいなければなりません。その間はなにがあっても自分で対処しなければならないのです。現在は狭いエリアの気象予報が可能になり、天気の変化は前もってわかる時代です。天気が下り坂の場合は渡船が出ませんから危険は少ないのですが、突然の大波までは予測できません。突風も同様です。

海に転落した場合に備えて釣り人はライフジャケットを着用するのはもちろんですが、転落した釣り人を助けるための救命ロープも必要です。

そして、なによりも気象に関する知識が不可欠です。磯釣りで一番怖いのは風です。風が強いと釣りが難しく、なによりも波が高くなります。その風を生じさせるのは気圧の差ですから、高気圧・低気圧や前線の動きを把握しておかなければなりません。また、風向きは釣り場を選ぶ際の大きな要素になります。冬季は北西の季節風が吹き荒れることが多く、その場合は東側に面した釣り場に行けば風も波もはるかに穏やかです。磯釣りをする以上はそのような知識が欠かせません。

 

フカセ釣りと潮読みの技術

基本的に、磯釣りではフカセ釣りが中心になります。サビキ釣りや投げ釣りはあり得ません。近年は磯のルアー釣りで青物を狙う人、エギングでアオリイカをターゲットにする人が増えていますが、やはり基本はフカセ釣りです。

マキエサで魚を集め、サシエサを同調させるには潮を読む能力が要求されます。磯は防波堤と違って地形が複雑で、それだけに潮も複雑な動き方をします。サラシもできます。表層流が滑ったり、二枚潮が発生する場合もあります。そういう状況を克服しなければいけないのです。

磯の場合は足場の問題もあります。足場が低いところでは干満が大きく影響します。干潮時に足場があったとしても、潮位が上がれば波の下になるでしょう。途中が通れなくなり、荷物を置いていたところに戻れなくなるケースもあります。それを防ぐには干満の時刻や潮の大小を知っておかなくてはなりません。

 

大物に耐えられる仕掛けを使います

磯釣りでは大物がヒットする確率が高いと前述しました。それにともなって、仕掛けも大物に対応したものにしなければ魚は取り込めません。竿はもちろん、道糸やハリスも防波堤より1ランクから2ランク、さらには3ランクもアップしなければなりません。といって、具体的に何号と決めつけることはできません。釣り場や時期によってヒットするサイズが異なるからです。

メジナを例にとってみます。30㎝クラスしか釣れないところでは1号竿、ハリスは1〜1.25号で十分です。しかし、40㎝クラスが出るところでは1.5号の竿、ハリスも1.5号は必要になるでしょう。尾長グレと呼ばれる60㎝近いサイズが出る場合は2号竿、ハリスは3号以上なければ取り込むのは難しいでしょう。いうまでもなく、これには地形や取り込みの技術とも大きく関わってきます。初心者は3号の竿にハリスは10号でなければ無理かもしれません。もっとも、そんな太い仕掛けで食ってくれるかどうかは別問題です。

このように、磯釣りでは学ぶべき要素がたくさんあります。ここでは触れませんが、釣り人として守らなければならないマナーもあります。それらをひとつひとつマスターし、危険を避けるためには、最初はベテランと同行することを強くお勧めします。

 

ベストシーズンは秋〜冬

春が訪れて暖かくなると釣りシーズンが到来……釣りを知らない人はほとんどそう思っているようです。ところが、3〜5月というのはクロダイとイカ、メバル、カサゴ以外に磯で釣れる魚はほとんどいません。多くのエリアでは2〜3月に年間の最低水温が記録されますし、春に産卵期を迎える魚が多く、その前後は食いが渋るためです。水温がある程度上がって安定するのは梅雨時期からで、それから多くの魚が食欲を増し、釣りやすくなります。といっても、夏場は水温が高くなりすぎ、エサ盗りが増えるし気温も高く、釣り人の方が耐えられません。わずかに夜釣りでイサキやマダイが対象になる程度です。

磯が本格的なシーズンを迎えるのは秋からです。青物が回遊してきますし、メジナも釣りやすくなります。イサキ、マダイも引き続きヒットしますから、いろいろな魚が釣れるという楽しみもあります。水温が18度を切る年明けまでが磯釣りのベストシーズンといっていいでしょう。

 

初心者の釣り場選び

ここにA、Bふたつの釣り場があるとしましょう。Aは魚がよく釣れるけれど、風を直接受けてしばしば飛沫も被るところです。Bは風も波も穏やかで、けれど魚は少ない磯です。あなたならどちらを選びますか? ベテランで風対策がわかっていて、波もしっかりと予測できる人ならAでもいいかもしれません。しかし、大半の釣り人はBを選ぶべきでしょう。魚釣りは遊びです。楽しむためにやるものです。風にあおられ、飛沫を被り、バッカンが流されないように足で押さえつつ仕掛けを流すようでは、いくら魚がよく釣れたとしても楽しくはありません。

それよりは、大きな島の陰に当たる磯でのんびりと竿を出し、仲間と他愛もない話をしながら釣りをした方がずっと楽しめると思います。

 

まとめ

磯釣りを取り巻く環境は年々悪化の一途をたどっています。相次ぐ埋め立て工事で干潟が減り、魚の産卵場所は減少するばかりです。温暖化のため海水温が高くなり、真冬でも小さなアジが湧いて非常に釣りづらいことも珍しくありません。しかし、条件が厳しく、食わせるのが難しいときほど釣り上げたときの嬉しさは倍増します。仲間たちも実力を認めてくれるのです。磯釣りにはそんな夢があります。

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