初心者にとってハードルの低い代表的な釣りが小アジのサビキ釣りとキスの投げ釣りです。
言い換えれば入門しやすい釣りというわけです。とはいえ、サビキ釣りと投げ釣りでは状況が大きく異なります。仕掛けも違えばポイントやエサ、アタリも違います。群れが回ってくれば小アジは何10匹も釣れますが、キスはそれほど数が釣れることはありません。しかし、サビキ釣りにはない数々の魅力があります。投げ釣りとはどのようなものかを解説するとともに、その魅力を紹介してみましょう。
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投げ釣りとは仕掛けを遠くへ投げる釣りです
投げ釣りとは文字通り仕掛けを遠くへ投げる釣りです。そのため、ロッドやリールは仕掛けを飛ばすことを第一の目的として開発されました。この「遠くへ飛ばす」というのが投げ釣りの大きな魅力といっていいかもしれません。子どもの頃、小石を投げてどこまで飛ぶかを競ったことはありませんか? 体を使ってより遠くへ飛ばすのは爽快です。投げ釣りがスポーツフィッシングと呼ばれるのはそのためです。
仕掛けをより遠くへ飛ばすためには10〜20号のオモリが適当ですが、それにともなって硬いロッドを使わなくてはなりません。長くても短くても飛ばしにくいので、ロッドの長さは3.6〜4.2mがメインとなります。リールは道糸が出ていくときにできるだけ抵抗の少ないものが望ましいので、スプールの大きいもの=大型のリールをおすすめします。
はっきりいって、キスはそれほど大きい魚ではありません。標準サイズは10〜20㎝で、時期や場所によってはそれより小さいサイズ、大きいサイズも釣れますが、それに比較してロッドの硬さは明らかにオーバースペックです。これは仕掛けを飛ばすことを目的としているからです。魚のサイズは二の次、三の次と思ってください。
仕掛けは絡ませない…これは釣りの原則です
絡んだ仕掛けでは魚は釣れません。これはすべての釣りに共通しており、投げ釣りも同様です。ところが、投げ釣りの場合、仕掛けが絡んでいることを知らせてくれるウキがありません。遠すぎて着水時に仕掛け絡みを目視するのも難しいでしょう。したがって、仕掛けは極力絡みにくいものを使います。それが天秤と砂ズリです。
道糸に中通しオモリをセットした状態を想像してみてください。投入されると仕掛けはオモリを先頭にして飛んでいきます。すると道糸とハリスは一体になり、非常に絡みやすい状態となります。そこで天秤を使い、道糸とハリスの間に距離をとってやります。同時に砂ズリも利用します。これはナイロンを2本縒り、3本縒りにしたもので張りを持たせ、より絡みにくくしたものです。原則として、投げ釣りではすべてこの天秤と砂ズリを使うと思っていいでしょう(力糸=テーパーラインの存在も忘れてはいけません)。また、同じ理由でハリスも硬めのものを使います。
エサはゴカイを小さくカットしてハリに刺します
キスはオキアミやエビも食べます。しかし、投げ釣りで使うのは無理があります。ロッドを強く振るとハリから落ちてしまうからです。そこで、投げ釣りではハリ落ちしづらいムシエサを使います。ムシエサにはいくつか種類があり、キス釣りに向いているのはゴカイのように細いムシエサです。それを小さくカットしてハリに刺します。
通常、キスはエサを求めて海底近くを泳ぎ回っています。そして、巣穴から頭を少しだけ出しているムシを見つけたら口先でくわえ、巣穴から引っ張り出すため体をくねらせて頭を大きく振ります。それがアタリとなって穂先に伝わります。体以上に大きなアタリが出るのはそのためで、「小さな大物」といわれるのはそれが理由です。投げ釣りでは考えられませんが、船釣りやボート釣りではアタリの大きさにびっくりしてロッドを海に取り落とすこともあるほどです。
といっても、その時点ではくわえているだけなので、すぐアワせてもハリに掛かる確率は低いと思ってください。単に仕掛けを張るだけにとどめておいた方が正解です。それでハリに掛からないときは穂先を送ることも試してみてください。キス釣りにアワセは不要なのです。
キス釣りの原則は引き釣りです
投げ釣りの釣り方は大きく分けてふたつあります。ひとつは引き釣り、もうひとつが置き竿釣りです。その名称の通り、引き釣りは仕掛けをゆっくりと手前に引きずりながらキスのポイントを探ります。エリアによって差はありますが、初夏から秋口までの活性が高いシーズンは主にこの釣り方が有利です。しかし、夜釣りや秋〜冬のオフシーズン、さらには大物を狙って障害物の近くを釣る場合は置き竿にして仕掛けをとどめる釣り方をします。これはカレイ釣りに使う方法で、カレイの場合は目の前にエサがあっても食事タイムにならないと食べようとしません。そこで、カレイが食欲を起こすまでじっと待たなければなりません(厳密には完全に止めておくわけではありませんが)。
ここで注意したいのが仕掛けを飛ばす距離です。引き釣りをするなら遠くへ飛ばせば飛ばすほど仕掛けを引きずる距離が長くなります。それだけ有利になるのは間違いなく、したがって投げ釣りはより遠くへ飛ばすことを原則としています。しかし、必ずしも遠くへ飛ばした方がよく釣れるわけではありません。時期や場所によってはキスが波打ち際まで接岸することもあるからです。特に秋口はその傾向が強く、そういう状況では片手が軽く投げる「ちょい投げ」でもよく釣れます。サイズが小さく、俗にいわれるピンギスが中心ですが、女性や子どもでも簡単に釣れるため、キス釣り入門としては最適といっていいでしょう。
キスは臆病な魚です
キスの体は非常にデリケートです。小さいからといって釣り人が体を握ってハリを外し、リリースしようとしてもそれだけで火傷をするほどです。したがって、キスは障害物の少ないフラットな海底=砂地に生息しています。砂地にはムシエサも多く、彼らにとって都合のいい場所ではあるのですが、敵から身を守るには不都合です。そこで、彼らは素早く逃げることで自分の身を守ろうとします。その結果、キスは異常=物音や光、影には非常に敏感になり、臆病な性質を身につけてしまいました。
通常、キス釣りは砂浜、または防波堤でロッドを振ります。その方が海底は砂地である可能性が高く、キスの実績も高いからです。しかし、臆病なキスは何度も同じところに仕掛けを投入するとその物音に脅えてすぐ逃げ去ってしまいます。同じところでは何匹も釣ることはできないのです。マキエサをすればいくらでも回ってくる小アジとはその点では大きく違います。数を釣ろうと思えば3〜4投したところで足場を移動します。防波堤は狭く、移動距離を長くするとすぐ投入地点がなくなりますから10〜20歩移動したらそこでまた投入します。それを繰り返してキスのアタリがなくなればほかの防波堤に移動します。砂浜は広く、50歩は十分移動できるでしょう。そこで3〜4投したらまた移動します。
キスは天ぷらが最高です
キスは白身の上品な味で、刺身はもちろん、塩焼きや煮付け、その他のさまざまな料理が楽しめます。しかし、なんといってもキスの美味しさを味わえるのは天ぷらでしょう。キスには小骨があり、通常の料理ではこれが厄介な存在になります。毛抜きでていねいに抜けばいいのですがかなり面倒です。そこで、揚げることで骨ごとたべられるようにするわけです。外はサクサク、中はふんわりと揚がれば最高の美味しさを味わえるでしょう。
まとめ
穂先にクンクンと伝わるアタリはキス釣りに特有の醍醐味です。ウキ釣りのような繊細なタックルを使わないから魚の引きを楽しむことはできませんが、投げ釣りは仕掛けを遠くへ飛ばすという爽快感を味わえます。はるか遠方に飛沫が上がり、それが着水点を教えてくれます。仕掛けを巻き取るとき、仕掛けだけの重さに魚の抵抗が加わり、水面には白い魚体が垣間みえます。このように、投げ釣りにはほかの釣りにはない楽しさがあります。キスはその投げ釣りの楽しさを味わうには格好の魚です。ぜひチャレンジしてみてください。