釣り上げられたイシガキダイ

かつて、石鯛は1匹10万円といわれていました。

一度の釣行が1万円の時代で、1匹釣るのに10回行かないといけないというわけで、それほど釣れない魚の代表だったのです。

現在は1度の釣行に必要な経費はもっと高くなり、回数も増やさないと釣れなくなっています。

それだけ価値は高まっているといえますが、そんな石鯛釣りに挑戦してみたいという釣り人のために最新事情を解説してみました。

 

●最大の魅力はサイズと引きの強さ

磯釣りというジャンルの中で、グレやクロダイは上物、石鯛やクエは底物と呼ばれています。

クロダイは底を釣ることが多いから底物と呼んでもいいのではないかという疑問があるかもしれません。

もともとは大物・小物と呼び分けていたのですが、グレ釣り師・クロダイ釣り師から小物とはなにごとだというクレームが出て、底物・上物という言い方に変わったという経緯があります。

石鯛やクエはウキを使うことはなく、徹底して海底を探りますから底物という呼び方は当たってないとはいえません。

石鯛釣りの魅力はなんといってもそのサイズにあります。

一般に、石鯛というと本種の石鯛(本石=ホンイシと呼ばれています)とイシガキダイを指しますが、どちらも60〜80㎝にまで成長します。

特に、イシガキダイの雄は老成すると口の周りが真っ白になるためクチジロと呼ばれますが、そのサイズは1mにも達します。

その引きは強烈で、態勢が整ってなければ腰が浮いて海に引きずり込まれそうになるほどです。

 

●強烈な引きに対応するための仕掛け

腰が浮くほどの引きに対応するため、石鯛釣りの仕掛けは頑丈でなければなりません。

竿は当然石鯛専用を使います。

道糸はナイロンの18〜20号が標準で、クチジロに的を絞る場合は22〜24号、さらにはそれ以上にすることもあります。

それにともない、リールはそれだけの太さの道糸を100m以上巻ける両軸タイプを使用します。

スピニングではパワーが劣り、石鯛釣りで用いることはほとんどありません。

石鯛釣り仕掛けに特有なのはハリスです。

本石もイシガキも歯は硬くて鋭く、ナイロンやフロロカーボンでは簡単に切られてしまいます。

底を釣るため岩にこすられる可能性が非常に高いという理由もあります。

そこで、簡単に切れないワイヤーを使うようになりました。

長らく鋼線の七本縒りが主流でしたが、食いが渋いときはもっと軟らかいものを望む声が出てステンレスの49本縒り、さらにワイヤーではなくケブラーやダイニーマなどの強靭な繊維が登場してハリスの勢力図は大きく変わりつつあります。

 

●遠投釣りと足元釣り

石鯛の釣り方は大きく分けて二通りあります。

遠投釣りと足元釣りです。一般に、石鯛は10m以上の深場に住んでいるといわれています。

足元にそのような深場があれば足元でも十分釣れるというわけです。

しかし、深場が沖にしかなければそこまで仕掛けを飛ばさなければなりません。

それが遠投釣りです。

一般に、関東・関西エリアは地形の問題もあって遠投釣りが発展してきました。

対して、九州・四国エリアは足元から深い釣り場に恵まれ、足元釣りが普及しました。地元の釣り人に特に人気を集めたのは南方宙釣りという方法です。

これは深場に続くカケアガリにマキエを効かせて石鯛を誘い上げる釣り方で、10mより浅いところを釣る関係でオモリを軽く、仕掛けを細くできるのです。

マキエが効果を出せば複数匹釣ることも可能です。

もちろん、宙釣りではない足元釣りもあります。

石鯛釣りでは当て潮を釣るのが原則で、潮がガンガン当たってくる深場に仕掛けを落とし込み(これは簡単ではありません)、アタリを待つという方法です。

この釣り方は多くの釣り人が採用し、九州・四国ではこれが主流となりました。

現在でもファンは少なくありません。

足元の釣りでは単純なナツメ型の中通しオモリを使えばよく、その先に30㎝程度のハリスワイヤーを接続するだけの簡単な仕掛けを用います。

 

●餌の大革命

一般に、石鯛の餌はウニやサザエがメインで、他にヤドカリ、アカガイ、サルボ、カラスガイ、ジンガサなどが使われていました。

ところが、その状況を一変させる餌が登場しました。

それがガンガゼ=通称ガゼです。

ご存じのようにこのウニはトゲが長く、しかも先端には毒を持っています。

大量発生して海藻を食い荒らすため漁師に嫌われている存在です。

ウニとしてはポピュラーなムラサキウニやバフンウニは高価ですが、このガゼは食用としての価値は低く、安い値段で取り引きされています。

初めてこの餌を使った場所では石鯛の食いが非常によく、マキエは必要ないほどの釣れ方をしました。

その情報は瞬く間に広まり、マキエを使わない釣り方が普及したのです。

経費も手間もかからず、それでいて石鯛が高い確率で釣れるのですから同調する人が多いのは当然です。

ウニをハリに装餌する場合はステンレス製のウニ通しという道具を使い、2〜3個をハリスワイヤーに通します。

そして、ラセンサルカンにセットします。

石鯛釣りの時期である夏場は餌盗りが多く、アカガイやヤドカリなどの軟らかい餌はひとたまりもありません。

その点、ウニは表面が硬く、餌持ちがいいというメリットもあります。

 

●現在の主流は遠投釣り

ガゼが人気を集めた理由はもうひとつあります。

足元のナイロンジャングルです。

足元から深い石鯛ポイントはそんなに多くありません。

特に、実績の高いところは釣り人が集中し、その結果、ナイロンジャングルと化しているのです。岩場の底を釣る石鯛釣りは根掛かりが常について回ります。

ベテランはなんとか外そうとして努力しますが、初心者は簡単に切ってしまいます。

ベテランにしてもどうしても外れなければ切るしか方法はありません。

それが積み重なると海底には無数のナイロンが残り、なおさら根掛かりしやすくなります。

石鯛釣り場として人気が高い男女群島の足元は海溝がオモリで埋め尽くされているという目撃談もあるのです。

そのため、足元でアタリが出る確率は極端に低くなっています。

それに引き換え、沖のポイントは広く、多く、それほどスレていません。

未開のポイントもまだまだ期待できます。

かつての遠投釣りはマキエを効かせるのに苦労していましたが、ガゼを餌にすればその心配も無用です(船から撒くことができればぜひやるべきでしょう)。

ただし、根掛かりを極力避けるため仕掛けにひと工夫が必要です。

以前は単純な捨てオモリ仕掛けを用いる人が多かったのですが、近年は天秤仕掛けが人気を集めています。

 

●ガゼでの遠投釣りは置き竿が基本

足元での釣りは竿を手で持ってアタリを待ちますが、遠投では置き竿にするのが基本です。

足元なら仕掛けの落としどころをいろいろ探り、アタリの出る箇所を集中的に攻めることが可能です。

しかし、遠投でそれをするのは不可能です。底に沈んだ仕掛けを引きずれば一発で根掛かりするからです。

そのため、投入したらそこでアタリを待ち、しばらく待ってアタリがなければ仕掛けを回収して再び投入することを繰り返します。

アタリが出たらそのラインを集中して攻めるのは足元釣りと同じです。

カウンター機能を備えたリールはそんなとき大いに役立ちます。

ウニ餌の場合、アタリは往々にして穂先を大きく引き込みます。

前アタリとして小さく上下しますが、その時点でアワセを入れてもまずハリに掛かることはありません。

海面が近い場合は必ず穂先が海中に引き込まれるまで待つのが鉄則です。

 

●白身なのに脂が乗って美味しい石鯛

石鯛は白身でありながら脂が乗っており、その味には定評があります。

刺身や寿司ネタとしてはもちろん、塩焼きや煮付けとどんな料理でも美味しく食べられます。

漁師や釣り人は、30㎝以下の小型=俗にいうシマダイ(サンバソウ)を丸ごと煮付けにしたものが大好きです。

ただし、この魚は火を通すと身が締まり、硬くなる傾向があります。また、大型はシガテラ中毒の可能性があり、食べない方が賢明です。

クチジロの有名な釣り場である小笠原の母島では5kg以上1匹しか持ち帰れないという制限を設けています。

父島はすべてリリースというルールを設定しました。石鯛釣りを長く楽しむための賢明な方法といっていいでしょう。

 

●まとめ

石鯛釣りを始めたきっかけを尋ねたとき、一人の石鯛釣り師はこう答えてくれました。

「そのときはグレがよく釣れて、回収された渡船の中でみんなが釣果を自慢し合っていたんです。

ところが、船に回収された石鯛釣り師がポンと獲物をデッキに置いたらみんな釘付けですよ。

そんなに大きくはなかったんですが、たった1匹の石鯛なのにその存在感がすごかったんです」10回以上釣行しないと釣れないという石鯛の魅力は案外そんなところにあるのかもしれません。

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